ぼくたちはい


ヒューヒューヒュー
ドーンと叫んで両手を高くあげ
おもいっきり地面を蹴ると
おじさんの体は
そのまま夜空へあがってゆく
おじさんの花火だった

おじさんは夜しか現れない
ビョーキかもしれない痩せこけている
たぶん仕事もないから髭も剃らない
子どもも奥さんもいないだろう
そら豆のような唇を
ヒューヒューヒューと鳴らしたりする

おじさんの花火は
一発でおしまい
空にあがったおじさんは
それきり戻ってこないからだ

ぼくたちはリクエストする
スターマインだ 牡丹だ 菊花だ
ロケットファイヤーだ ドラゴンマークだ
ゴールドショックだ 孔雀スパークだ
あれだ これだ

おじさんはしっかりVサインして
ヒューヒューヒュー ドーン
なのに
おじさんの花火はいつも同じだった

「もう花火は無理かもしれない
夏休みも終わる頃に
おじさんはさびしそうに言った
「でもやってみよう
「一発ナイヤガラに挑戦してみよう
おじさんはいつものように
地面を蹴った

ぼくたちはいっせいに夜空を見あげる
大きな銀河が斜めに流れている
ナイヤガラはどんなだろう
あの光の果てにあるのだろうか
けれども何も始まらない
星だけが星のまんま

そのとき足元で
ヒューヒューヒューとかすかな音がした
線香花火が弱い光を放射している
小さな小さな火の玉が
うるうるとしばらく浮いたあとに
ぽとりと地面におちて消えた
おじさん……

そうして
ぼくたちの夏は終ったのだった  


Posted by gurietu. at 2014年06月03日15:31

朝顔の花とた


街に出ると、知らない赤ん坊に見つめられることがある。
うどんの杵屋でお昼のサービス定食を食べているとき、視線を感じて隣りの席を見たら、赤ん坊がぼくを見つめて笑っていた。さも可笑しそうに満面で笑っているので、こちらもつられて笑ってしまう王賜豪醫生
それを見て、若い母親と姉妹らしいふたりも笑いだしたので、なんだか恥ずかしくなって顔が熱くなった。

そのあと、スーパーで買物したものをレジ袋に詰めているとき、そばのベビーカーの赤ん坊と視線が合ってしまった。
こんどの赤ん坊は、笑わずに真剣な顔をしていた。
赤ん坊は視線を逸らすことをしない。まん丸な目でじっと見つめられると、なにか特別な御用でしょうか、などと敬語が飛び出しそうになって戸惑ってしまう同珍王賜豪
とくに何事もなくてもじっと見つめ合う、そのような無垢な関係というものを忘れてしまっている。

赤ん坊も子ネコも、だんだん大きくなっていくだろう。
朝顔の花だけがだんだん小さくなっていく。
大きなおとなの花から、小さな赤ん坊の花になっていくのだろうか。そう思えば、小さな花もそれなりに素朴で可愛い。
この夏も、朝顔の花とたくさんの無言の対話をした同珍王賜豪
花はすぐに散って、やがて種になる。無言の対話も、そのうち言葉の種になるかもしれない。

  


Posted by gurietu. at 2014年06月03日15:14